ひな祭りのためのお噺 #02
今日は寿司にしないか? というコウヤの提案に了承の意を伝えると、早速嬉しそうに電話をかけ始めた。
チラシを見ながら電話しているのを見て、近くの寿司屋に出前を頼むのだとわかった。
そういえば今日は夜は急激に冷え込むとの予報だったな、とぼんやり思い出す。
加えて、コウヤの体調もここのところ良くない。
外食に出るより、出前を取るほうがいいだろう。

「じゃあ、ひな祭り特撰セット二人前で! よろしくお願いしまーす!」

そう言って電話を切り、にこにこと嬉しそうな表情でこちらを見るコウヤに、思ったことをそのまま言葉にした。

「ひな祭りセット?」
「うん! 見てこれ!」

満面の笑みでチラシを手渡してくる。
そこには「ひな祭り特撰セット」という文字が添えられた、手鞠寿司の盛り合わせの写真が大きく載っていた。
どうやら、はまぐりのお吸い物もついてくるらしい。

「あーこれか」
「かわええやろそれ!」
「ほぉ……この内裏雛みたいなん、かわええなこれ」
「せやろ! これ頼んだ!」
「うん、聞こえてた」

男二人でひな祭りはどうなのか、という考えには及ばない。
この男の思考回路を理解しているからである。

「さすがにもう言わんくなったな」
「何が?」
「男二人でひな祭りぃ? とか」
「お前との付き合いも長いですからねー」

イベントは主に愉しむためにある。
「何かを愉しむ」のに性差は必要ない。
簡単に言うと、そういうことである。

「しかしまた、手の込んだ商品やな、これ」

寿司の握りかたに関しては無知だが、写真を見る限り、相当手間のかかりそうな盛りつけである。
宅配の過程で酢飯の上のイクラが落ちやしないか、はまぐりのお吸い物がこぼれやしないか、などと余計な心配をしてしまう。

「せやんねー。着物着せんのとかイクラ乗せんのとか大変そう、持ってくる途中で崩れそうやし」
「俺と同じこと思てる」
「さっすが親父、相思相愛ですなー」

嬉しそうにコウヤが抱きついてくる、というかのしかかってくる。

「ちなみに、菱餅と引千切は昼間に買うてきました!」
「愉しむ気満々やな」

ちなみに、桃の花まで買ってきている。
満面の笑みで買い物から帰ってきたコウヤを見た瞬間に、去年の七夕や菊の節句のことを思い出した。

「あ、白酒買うてくんの忘れた!」
「日本酒あんねんからそれでええやん、寒いから燗して」
「うぅぅ……なんかもったいない」
「今から買いに行くのめんどいやろ。また明日でもスーパー行って、残ってたら買うたらええやん」
「……そですな」

少ししょんぼりするコウヤの頭を撫でる。
この男の思考は、柔軟なようでまだまだ硬い。
そう思う自分の思考も、柔軟だとは思えないが。

「イベント愉しむのに性別関係ないけど、日時も関係ないことないか?」
「ほえ?」
「そら、ライブとかパレードとか当日しか楽しまれへんもんもあるやろうけど。クリスマス終わってから半額のケーキ買うて喰うたってええんやし、こないだも半額のバレンタインチョコ買うてきて喰ってたやん」
「あー……うん」
「六日の菖蒲、十日の菊……でもええんちゃうん?」
「……そっか、そだよね」
「じゃあ、白酒は明日以降にするとして、今日はひな祭りで一杯やりましょか」
「おっしゃ、飲もうぜ!」

そうやって、元気よく立ち上がるのかと思ったら、尚更強く抱き締めてきた。
それに答えるように、苦しいとぼやきながらもコウヤの躯を抱き締め返す。

ジェンダーやセクシャリティが人それぞれのように、何かの愉しみかたもまた人それぞれである。
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